海上リスク・マネジメントー海上輸送される自動車の損害。これが「ニューノーマル」か?

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2016.02.10 | ニュース

海上リスク・マネジメントー海上輸送される自動車の損害。これが「ニューノーマル」か?

最近の一連の事故を見ると、自動車の海上輸送は貨物の大きなリスク要因だと言って間違いない。集積リスクはそれが輸送中であれ陸上保管中であれ極めて大きい。将来ともこの高額な積荷について保険付保のみちを確保して行こうとするのであれば、適切なリスク・マネジメントが必要とされる。マイケル・ハウアー(ミューニック・リー社、アジア・太平洋地域海上部門責任者)

2015年8月、天津港で発生した大爆発は、人災あるいは天災のいずれについても貨物が脆弱であることを改めて実証した。このケースでは、被災地域に保管されていた68,000台を超える自動車のほとんどが被災した。損害の総額は前例が無い高額に上り、中国々内また国際市場で引き受けられた海上保険や財物保険契約のポートフォリオに巨額なクレームを発生させた。しかし、たまたま幸運なことに、爆発地点は、高額な貨物を満載した多数のコンテナーが集められた港湾内の荷役地区から4キロメートル以上も離れていた。

問題点は十分に認識されている

港湾の、また大型コンテナー船上の大集積危険について、海上保険業界での論議の対象となってかなりの時間が経つ。目下のところ、リスクマネジメントに基づく現実的な対策はとられておらず、したがい、港湾が日に日に拡張される中、それに比例して危険度が増してきていることは当然ではある。さらに憂慮すべきは自動車の海上輸送の損害が日常茶飯事化し、ニューノーマル、即ち新たな常態、になっている事実だ。下記の表は未完成ではあるが、過去10年間の自動車海上輸送についての主要損害を示している。これによるとこの種の損害は、ほぼ定期的に発生していることになる。

Munich Re

輸送また保管中の高額エクスポージャー

輸送中のリスクと言えば、先ず船舶積載貨物の膨大な集積リスク抜きには語れない。現在、最大の自動車運搬船はホーグ・ターゲットだが、同船は8,500台の自動車を積載できる。この台数は26マイル(約41.6キロメートル*)に及ぶ交通渋滞に巻き込まれた自動車の数に相当する。上甲板の高い上部構造、また防水遮断壁を欠く貨物倉の構造が自動車運搬船を非常に脆弱なものにしている。車両の積み込み、積み下ろし用に設けられた大型ランプ構造を通じての浸水あるいは衝突後の浸水が生ずれば、船体そのものの沈没と言うことになる。更に、航行中また港内停泊中に、貨物の固定が不十分でそれが移動すると、また船体安定用のバラスト配備を誤ると、船は著しく安定を失うことになる。これらは2015年のホーグ・オーサカの事故を始め、数々の過去の事例で見られる。車両の確実な固縛、またRO/RO船で輸送されるその他の貨物の適切な積み付けがリスク・マネジメント上の要諦となる。

また自動車の陸上保管中の危険度は輸送中のそれに比べ、同等あるいはそれ以上に大きいとさえ見積もられている。ゼーブルッへ、ブリストル、ニュージャージーそしてジャクソンビルといった自動車の保管地域を抱える大型港では、最多12万台の車両が同時に集積することがあり得る。その結果、保険業界は膨大な危険を負担することになる。この傾向は車の販売が低調になる経済危機時に著しい。損害の記録を見ると、ほとんどの陸上損害が気象絡みであることが明らかだ。広大な自動車保管地区では言うまでもなく自然災害危険、ことに、ひょう(ヘイル)が極めて危険で、ヨーロッパだけでも、2004年以降、20件以上の海上保険ロスがひょうに関するものであった。ミューニック・リー社のデータ・ベースに基づく調査では、世界の多くの自動車の保管場所がひょうの被害を受け易い地域にある。これには港湾またターミナル施設の計画とその施工に理由がある。つまりそこではひょうについての考慮はなされて無かったのが実態だ。

しかし、海上リスク・マネジメントの観点からすると、このひょうはとても看過するわけには行かず、他にリスクの削減策をとることが不可欠となる。幾つかの予防策は実現可能で、例えば車両のプラスティック被覆を厚くしたり、覆いを掛けるなど、あるいは防ひょう網(ヘイルネット)の使用なども検討してみるべきだ。これは大抵の場合、損傷を免れるのに役立ち、特段に激しいひょう(ヘイルストーム)でもなければ倒れることもない。

大きな損害を引き起こすその他の自然災害危険として高潮がある。これについては、2012年のハリケーン・サンディで経験した通りだ。自動車の保管区域は大抵埋立地に設けられており、多くの場合海面から2~4メートルの高さで、高潮また津波の危険度は極めて高い。一例として、カナダの大型自動車保管地域が挙げられる。この保管地域は河川の中、ひとつの島にあり、雪解け時には洪水の危険に曝されることになる。一般論として、車両保管地域の高さを再調査すること、少なくとも高額な車両は他より一層高い場所に保管することが強く薦められる。

しかし、強風もまた、最近の損害事例が示すとおり、自動車に損害を与える。小石、木の枝あるいはその他の物も車に当たれば、かき傷、へこみあるいはフロントガラスの破損さえ生じさせることがある。さらに、砂嵐は自動車の仕上げ塗装に深刻な損害を及ぼすことがある。したがって、自動車の保管地域一帯はこれらの物体が一掃されており、また強風に曝されないことが求められる。そして、自動車はしかるべき被覆を施し、十分に防護する必要がある。損害は自動車の内部にも発生することがある。2015年2月のハリファックスでは同月だけで130センチの降雪が報告された例もあり、この時の深刻な雪氷ストームは保管自動車の電子系統に損傷を与えている。

最近、車がディーラーへ向けトラック輸送される間に発生する火災損害の頻度も上昇しているとの調査報告がある。自動車運搬車がその積載台数を最大化を図るため改造され、また大型化もされてきたために、制動装置に従来より負荷が掛かるようになってきたのだ。この状況はオーバー・ヒート、時として発火を誘い、その火は瞬く間に運搬車に搭載された自動車全てに拡がったことがある。

天津から何を学ぶことができるか?

天津港の場合、天災とは別に、爆発などの人災による損害が絡んだ。近年リスク防止の分野では既に大きな成果が挙げられ、人的過誤また過失を減少させることによって、かき傷またへこみなどの防止にはおおいに役立ってきた。しかし、天津の災禍は、絶え間なく増え続ける“集積のシナリオ”つまり集積の将来の姿と、“人災のシナリオ”という新たらしい局面を明らかにした。

いくつもの悪条件の影響によって保管自動車に巨額損害が引き起こされた。自動車の保管地域は化学製品の貯蔵所に近接させてはならない。危険は単に爆発リスクに止まらず、化学物質が風で飛散し、自動車に腐食また化学反応を起こさせる可能性もあるのだ。危険物の安全保管・輸送に関する国内法また国際法規の順守と関連当局の厳しい監督は必須事項だ。労務従事者、港湾リスク・マネジメント部門また消防当局は十分に訓練を受け、港湾に貯蔵される物資とその安全な取り扱い方法について精通していることが求められる。

集積シナリオのモデル化は海上保険事業者にとって常々難題となってきた。これはその事業の性格から来る。とはいえ、自然災害シナリオのモデル化についてはかなりの進捗をみた。しかし、人災シナリオについては未だ懸案のままだ。爆発物を用いた事件対策としてはテロリズムのモデル化も選択肢の一つである。まだ確認出来ていない集積については透明性を高めねばならず、貨物の詳細な脆弱性に応じた管理プランを策定し、この種の事態に対するシステム的なエクスポージャー管理が必要だ。

約款条件と条項

自動車の輸送について、ブランド・プロテクション・クローズの適用はごく一般的となってはいるが、天津の事故が発生し、その条項の多くが、どのような場合に全損請求のできるのか、明確に 規定していないことが改めて明らかとなった。その結果、保険会社と被保険者の間の話し合いが長引くケースが相次いでいる。透明性の確保は、全当事者の利益であり、これらの約款の文言の見直しを進め、曖昧さの残らないものに改定をしてゆく必要があるだろう。一例を挙げると、自動車の残存物回収と使用可能な部品の再利用が一層重要となろう。

加えて、保管期間が通常の60日間を大きく超過するようになっているが、これは往々にして海上リスクを財物リスクに変容させることになっている。海上保険のアンダーライターは、保管の長期化に伴い発生するリスクを認識し、リスク・マネジメントが適切であること、また適用条件が財物保険に即していることをそれぞれ確かめる必要がある。

積荷としての自動車が大きな損害を被った場合、そのほとんどは再保険者が負担してきた。しかし、これは最終的には再保険によりリスクを次のレベルに移転してきたにすぎない。自動車はリスクに対し極めて脆弱な貨物であり、保管場所でのリスクの集積は膨大だ。従って、その輸送また保管には、リスク・マネジメントとアンダーライティングの両面から十分な注意を払う必要がある。損害は現実的には、妥当とされる一定期間内に料率に反映して回収することは困難である。また直近時の損害は適正に料率の中に反映されることが必要だ。したがって、保険条件は適切であり、また持続性のあるものでなくてはならない。さらに加えて言えば、その様な動きはアンダーライティングとリスク・マネジメントを改善させる一種の触媒としての役割を果たすものでなければならない。

この状況を改善することは自動車の製造業者とそのステーク・ホルダーたちにも共通の利益をもたらすと見て間違いない。あるモデルなりシリーズにキズがあると消費者が耳にしたら、高級ブランドもいとも簡単に傷つくことになる。この状況を改善するためには、リスクの削減また防止が鍵となる。それには、まずはじめに、フロントガラスからエアーベントまで、車体を完全に覆うことにより、自動車自体の防護を確実なものにすることだ。そのためには、保管場所の選定とその定期的監視がまた重要事項となる。高額な自動車ほど、より優れた防護が求められるのだ。今こそ、海上保険業界全体が、この危機的状況の変革に向けての強い意志を持ち続け、自動車輸送を将来も適切なプライス・料率で保険引き受けが可能な状況を確保すべきである。

連絡先

このプレスリリースにつきましてご質問等がございましたら、ミュンヘン再保険会社 Munich Re Japan 広報担当までご連絡ください。
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