ECBの信認揺らぐ ミュンヘン再保険CEOに聞く

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2012.10.02 | ニュース

国債購入、欧州中銀の信認揺らぐ ミュンヘン再保険CEOに聞く

欧州保険大手で機関投資家でもあるミュンヘン再保険のニコラス・フォン・ボンハルト最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞の取材に応じ、債務危機では「あらゆるシナリオを想定して経営している」と語った。ギリシャなど南欧諸国のユーロ離脱で為替相場が乱高下することを想定する一方で、財政政策の一元化が進んでドイツ国債が格下げされることも念頭に置いているようだ。危機の先行きがそれだけ予測しづらいという悩みが読み取れる。債務危機を克服するためには欧州中央銀行(ECB)の南欧国債の購入など目先の対策に頼るのではなく、各国政府が欧州統合を進めるべきだと主張した。一問一答は以下の通り。(聞き手はベルリン=赤川省吾)

ニコラス・フォン・ボンハルト。

ニコラス・フォン・ボンハルト。

ニコラス・フォン・ボンハルト氏 ブラジルなど国内外での勤務を経て2004年から世界最大の再保険会社を率いる。ドイツの多くの財界人と同じように欧州統合推進派。56歳。

――ECBが政策金利を過去最低の年0.75%にまで下げた。超低金利政策は保険業務にどう影響しますか。

「予定利率を約束する生命保険は時間とともに問題が大きくなるが、ドイツでは長期運用が軸となっているためしばらくは持ちこたえられる。一部については金利変動リスクを減らす金融派生商品(デリバティブ)を使い2005 年から危険を回避するようにしてきた。だから生保部門も自力で数年間はこの状態に対応できる」
「(過剰な流動性で)物価上昇が激しくなるかが焦点だ。それに伴って名目金利も上昇すれば、生保にプラスとなる。だが金利が上がらなければ生保だけでなく、損害・傷害保険も大変なことになる。インフレ連動の運用資産で守るしかないと思っており、数年前から取り組んでいる」

――欧州はインフレになると予想しているのでしょうか、それとも日本のようにデフレに陥るのでしょうか。

「保険会社にとってほとんど経験のないデフレは危険だ。日本を見れば、いったんデフレに陥るとそこから抜け出すのが非常に難しいことがわかる。もちろん、超インフレとなれば話は別だが、インフレの方がまだましだ。欧州が景気回復するのを待つため、中銀はそんなに早く流動性を吸収しないだろうし、中長期的にはインフレ率が上がっていくのではないか。いまは年1~3%が巡航速度になっているが、かつては年5~6%は珍しくなかった。その水準を超えることはないのではないか。しかもインフレ率は急上昇するのではなく、緩やかに上がっていくに違いない」

――債務危機は経営の重荷になってきましたか。

「これまではうまく立ち回ってきたと思う。(リーマン・ショックで始まった)危機の最初の2年間は信用リスクがほとんどなかったので非常に好調だった。それが銀行の経営悪化と債務危機に転化してから状況は変わった。銀行や政府に対する債権を持っていたからだ。ただ、ほかの大手保険会社に比べて影響は軽い」

――銀行間取引市場では機関投資家が銀行向けの資金供給量を減らしている。ミュンヘン再保険はどうでしょうか。

「国債と同じように(融資など)銀行向け債権ではリスク分散を図っている。債権額を減らし、個別の銀行破綻ではミュンヘン再保険の経営が傾かないようにした。もちろん銀行システム全体が揺らげば難しい局面となる」
「(債務危機のなかで)どんな状況になっても耐えられるように、極端な事例まで、あらゆるシナリオを想定して経営している。素早く財政政策を一元化するケースから、ユーロ圏の崩壊までを想定したシミュレーションを実施した。どのケースもなんらかの影響は出るだろうが、経営が大きく傾かないようにするのが狙いだ。すべてのリスクを完璧に防ごうとすると経営はできないし、リスクはどこかに残る。例えば世界的に深刻な信用不安になれば影響は広がる」

――かつては運用資産のなかにギリシャ国債が組み込まれていました。いまはどうでしょうか。

「いまは持っていない。(南欧などの)ユーロ中核国でない国の国債は限られた量しかなかったが、それでも保有量を減らした。出資比率のほぼ半分を占める英米系株主の意向でもある」

――南欧国債の利回りを下げるため、ECB理事会は償還期間が1~3年の南欧国債の購入で合意。欧州安定メカニズム(ESM)も国債を買い取る準備を進めています。機関投資家にとっては朗報ではないのでしょうか。

「これまでの危機対策には基本的に満足しているが、最近になって決まったECBの国債購入には問題があると思っている。経済成長をしっかりと取り戻すことと、金融市場と国民から財政政策への信認を回復させることの2つを追い求めることは正しい。通貨ユーロを堅持し、通貨統合を守るという強い決意をマーケットに送りたいというECBの思いも理解できる。だが一定の効き目はあるものの、口先介入の効果は2~3週間しか持たない。持続力があるのか疑問視している」
「ECBは時間を稼いだのだから、政府はこの機会を逃すべきではない。債務危機の解決に動く必要があり、欧州統合の深化に向けた明確な工程表を示すべきだ。すでに多くの時間を無駄にした。(ESMの設立を容認した)ドイツ憲法裁判所の判決も想定内で、その方向性は正しい。ただ弱い国への支援は基準を明確にすべきだ。銀行監督の一元化も実現する前に運用方針など詳細な規則を明らかにする必要がある」

――なぜECBの国債購入を評価しないのですか。

「もし資産運用担当者だったとしたら目先の問題が解決したからといって喜んだだろう。しかし保険会社はもっと長期的な視点に立たねばならない。ECBが国債を買い取れば、国民と金融市場からの信頼が揺らぎかねない。やり過ぎはよくない。いまは将来の政治・経済的な構造を議論することこそ重要だ。政治家は国家主権を移譲するのをためらう。憲法改正論議に突き当たればリスクばかり大きく面倒なことになるからだ。しかし主権の集約なしには債務危機は完全には終わらない」

――欧州連合(EU)に主権を移譲して財政政策を一元化する構想があります。実現可能だと思いますか。

「必要だし、時間はかかるが可能だと思っている。早急に条件整備を進めるべきだ。世論調査で欧州統合への熱意が冷めているように見えても、まだ多くのドイツ人が統合を深めるべきだと考えている。きちんとした制御機能があるならば、ドイツから(南欧などに交付金を与えるように)継続的に資金支援する仕組みでもいい。この制御機能は効果の薄い、場当たり的な決め方ではよくない」

――主権移譲の一環として銀行監督の集約が2013 年から始めます。保険会社の監督も一元化すべきですか。

「例えば欧州域内を網羅する監督体制は望ましい。ドイツの監督当局がすべてのグループ会社を監視し、ほかの国の監督当局とも連携することが考えられる」

――2011 年はアジアで相次いで大規模な自然災害が起きた。経営上の重荷でしたか。

「ニュージーランドの地震と東日本大震災で11 年の自然災害による負担額は非常に大きかったが、それが再保険会社の業務だと割り切っている。ただ悪天候による損失リスクが大きくなっていることは気にしている。地震リスクは時代とともにすぐに変わるわけではないが、地球温暖化で悪天候による災害は明らかに増えている。そうした地域では保険の契約件数・金額も増えており、保険金支払額も膨らむ。賢い予防策と専門的かつ世界規模のリスク分散で対応していきたい」

――保険料の引き上げも選択肢ですか。

「そうだ、といいたいところだが自然災害の再保険料の設定は非常に透明。契約更新の際に大きな被害があった地域を除けば保険料はそれほど値上がりしていない。いま価格設定で問題なのは自然災害関連ではなく、超低金利の影響を受ける損害賠償責任保険の方だ。超低金利を相殺できるほど値上げ交渉は進んでいない」

――再保険会社による中東での業務の縮小でイラン産原油の輸送が難しくなるなどの影響が出ました。中東業務はどういう方針で臨みますか。

「政治情勢が業務に響いている。単に政治情勢が混迷しているというだけなら、そこから撤退するかどうか判断が難しい。判断する際に背中を押すのがEUや国連の制裁決議だ。長期契約もあり、すぐに適用するのは簡単ではないが、なんとか解決策を見いだしている」

――日本市場をどう見ます。

「ミュンヘン再保険は1912 年に日本で初めて業務を手掛け、今年で100 周年を迎えた。これを顧客を祝うことには特別な感慨がある。昨年は保険会社にとっても厳しい年だった。東日本大震災が起き、そこからの再出発を少しは手伝うことができたのではないか。日本は非常に重要な市場だし、顧客とも信頼関係で結ばれている」

■聞き手から インタビューでは低金利が長く続けば生損保・再保険のすべてに重荷との考えをにじませた。だがドイツ企業の将来を左右するのは目先の市場動向ではなく、むしろ欧州統合の行方。企業経営者のほとんどがユーロ維持派で南欧支援も条件付きで容認する。政治に統合加速を迫っている。

(出典:日本経済新聞、デジタル版)

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